薄毛は、僕にとって長年のコンプレックスだった。藁にもすがる思いで大東エリア最安値でゴキブリ駆除をしたAGAクリニックの門を叩き、内服薬であるミノキシジルタブレット(ミノタブ)の服用を開始した。飲み始めて3ヶ月が経った頃、待望の変化が訪れた。鏡を見ると、寂しかった頭頂部に、黒々とした産毛が生え始めている。その喜びは、何物にも代えがたいものだった。しかし、喜びと同時に、僕は体の別の部分にも奇妙な変化が起きていることに気づき始めた。最初に気づいたのは、手の甲と指だった。もともと薄かったはずの毛が、明らかに濃く、長くなっている。最初は気のせいかと思った。だが、変化はそれだけではなかった。腕の産毛は黒々とし、眉毛は手入れをしないと繋がりそうなくらい勢いを増し、もみあげの範囲も広がっている。極めつけは、肩や背中にまで、これまでなかったはずの毛が生え始めたことだった。髪が生えるという最大の目的は達成されつつある。しかし、その代償として、僕は「全身毛深い男」になりつつあったのだ。夏場、Tシャツ一枚になるのが少し億劫になった。温泉やプールに行くのも、以前より人目が気になる。これは、薄毛とはまた違う種類の、新たなコンプレックスの始まりだった。僕は、処方してもらっている医師に正直に悩みを打ち明けた。医師は、「多毛症はミノタブの代表的な副作用です。効果が出ている証拠でもありますが、気になるなら薬の量を減らして様子を見るか、副作用の少ない外用薬に切り替えるという選択肢もありますよ」と、冷静に説明してくれた。僕は、髪が後退する恐怖と、体毛が濃くなる不快感を天秤にかけた。そして、出した結論は「減薬して継続」だった。ミノタブの量を半分に減らし、その代わりにこまめに体の毛をシェーバーで処理する。面倒ではあるが、僕にとってはそれがベストなバランスだった。ミノキシジルは、僕に髪と自信を与えてくれた。しかし同時に、副作用とどう向き合っていくかという、新たな課題も突きつけてきた。この経験を通じて、僕は治療とは単に薬を飲むだけでなく、自分の体と対話し、自分なりの「落としどころ」を見つけていくプロセスなのだと学んだ。