AGA(男性型脱毛症)治療薬であるフィナステリドやデュタステリドの服用と、まれに報告される「うつ症状」との間には、どのようなメカニズムが考えられるのでしょうか。まだ完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。これらの薬剤は、5αリダクターゼという酵素を阻害することで、テストステロンからDHT(ジヒドロテストステロン)への変換を抑制します。DHTはAGAの主な原因物質ですが、男性ホルモンの一種であり、脳の機能にも影響を与える可能性が指摘されています。一つの仮説として、フィナステリドやデュタステリドが、DHTだけでなく、脳内で精神安定や気分の調節に関わる他の神経ステロイド(例えばアロプレグナノロンなど)の生成にも影響を与えるのではないか、というものがあります。これらの神経ステロイドは、GABA受容体などに作用し、抗不安作用や鎮静作用を持つとされています。もし、これらの神経ステロイドの濃度が低下すると、不安感が増したり、気分の落ち込みが生じたりする可能性があると考えられています。また、男性ホルモン自体が、意欲や気分の高揚に関与しているという側面もあります。DHTの濃度が低下することで、間接的にこれらの精神的な側面に影響が出る可能性も否定できません。さらに、直接的な薬理作用だけでなく、副作用として現れる可能性のある性機能障害(性欲減退、勃起機能不全など)が、心理的なストレスとなり、二次的にうつ症状を引き起こすという間接的なメカニズムも考えられます。ただし、これらのメカニズムはまだ研究段階であり、明確な因果関係が証明されているわけではありません。また、うつ症状の発現には、個人の体質や精神的な素因、環境要因なども複雑に絡み合っていると考えられます。AGA治療薬と精神症状との関連については、今後のさらなる研究が待たれるところです。