三ヶ月前のことだ。僕、佐藤健太、二十六歳は、人生で初めて本気で自分の髪と向き合うことになった。きっかけは、彼女に言われた何気ない一言だった。「最近、部屋に髪の毛よく落ちてるね」。悪気のないその言葉が、僕の心の奥底に突き刺さった。確かに、自分でも気づいてはいた。朝起きると枕に数本の髪がついていたし、シャンプーの時には指に絡まる量が増えた気もしていた。でも、それはきっと気のせいだ、仕事が忙しくて疲れているだけだと、見て見ぬふりをしてきたのだ。彼女の言葉は、僕が薄々感じていた不安を、否定できない現実として目の前に突きつけた。その夜、僕は風呂場の排水溝の前に一人、膝をついていた。いつもならシャワーでさっと流してしまう抜け毛の塊を、震える指でそっと拾い上げる。そして、洗面台の白い光の下で、それを一つ一つ数え始めた。一本、二本、三本。数えるほどに、心臓の鼓動が速くなる。その日に抜けた髪は、全部で八十本を超えていた。これが果たして多いのか少ないのか、当時の僕には全く分からなかった。ただ、具体的な数字として示された現実は、ずしりと重くのしかかってきた。僕はスマートホンで「抜け毛 平均本数」と検索した。そこに書かれていた「一日百本程度は正常範囲」という文字に少しだけ安堵しつつも、今まで考えたこともなかった「毛根」という言葉に目が留まった。僕はもう一度、洗面台に広げた自分の抜け毛を凝視した。そのほとんどは、根元に小さな白い塊がついていた。しかし、中には明らかに細く、毛根すらない弱々しい毛も混じっている。この記事は、それが危険なサインかもしれないと告げていた。絶望と不安で、その夜はほとんど眠れなかった。しかし、翌日から僕の行動は変わった。毎日、シャンプー時の抜け毛を数え、記録し始めたのだ。それは辛い作業だったが、現実から目を背けていては何も変わらないと思ったからだ。抜け毛チェックは、僕にとって単なる本数確認ではなかった。それは、自分の体と生活に真剣に向き合うための、最初の、そして最も重要な儀式だったのだ。
僕が抜け毛チェックという現実と向き合った日